【最終更新日】2022年12月5日
シャトー・ムートン・ロートシルト(Château Mouton Rothschild)は、ボルドーのメドック地区、ポイヤックにあるシャトーです。
五大シャトーの一つに数えられていますが、1855年のボルドーの格付けでは2級に甘んじました。
シャトー・ムートン・ロートシルトは変更や見直しのされないこのメドック格付けの中で唯一2級から1級への異例の昇格を果たしたワインです。
2級から1級に昇格をする場合に、ムートンロートシルトとしては「1級の価値を下げることなく、自身が1級に昇格する」ことが必須になります。
例えば「ムートンロートシルトを昇格させるけど、ほかのシャトーも評価が高いから抱き合わせて5個を1級に昇格させよう」となるとしましょう。
すると1級シャトーは10個になってしまい、相対的に1級シャトーの価値は下がることになってしまいます。
これを避けるためには「ほかのシャトーは1級に昇格させず、ムートンロートシルトだけ例外的に昇格をさせる」という半ば現実離れした優遇を受けなければならないのです。
これだけ特別な優遇を受けるからには、ワインの味わいは唯一無二の芸術性と、多弁で派手な味わいがどうしても必要になります。
これを受けてシャトームートンロートシルトは5大シャトーの中でも最も華やかなで重厚な味わいの仕上がりになっているとされています。
シャトームートンロートシルトの基礎知識
畑とワインの特徴
シャトー・ムートン・ロートシルトはボルドー地方のジロンド河口に続く斜面にブドウ畑を持っています。
90ヘクタールの広さがあり、栽培している品種は、カベルネ・ソーヴィニヨンが81%、メルロが15%、カベルネ・フランが3%、プティ・ヴェルドが1%です。
ワインの特徴は、カベルネ・ソーヴィニヨンの比率が多い点です。そのため、たくましく、独特の芳香や優れたバランスを持ちます。
また、きわめて長命なことでも知られ、かつて醸造長だったラウル・ブロンダンは「5年まではグレープジュースで、ワインではない。25年経たないとムートンにはならない」と説明しています。
歴史・起源
シャトー・ムートン・ロートシルトは、1430年頃はイギリスで有名なグロスター家が所有していました。
1718年にはシャトー・ラフィット・ロートシルトやシャトー・ラトゥールを所有していたニコラ・アレクサンドル・ド・セギュールによって買収されました。
その後土地改良や区画整理、相続が行われ、1853年にはロンドンのロスチャイルド家のネイサンの息子、ナサニエルがシャトー・ムートン・ロートシルトを購入しました。
その2年後にボルドー・メドック地区の格付けが行われました。
この格付けはワインの取引価格に基づいて行われました。
しかしシャトー・ムートン・ロートシルトは他の1級シャトーと同じような価格で流通していたのにもかかわらず1級格付けからすべり落ち、2級の格付けをされてしまいます。
名目的には畑と建物の荒廃が理由とされていましたが、実際のところは所有者がイギリス国籍であったことや、シャトーを所有してわずか2年という新規購入者への反発が原因だったと言われています。
これはムートン・ロートシルトにとっては痛恨の極みであり、
「われ一位たり得ず、されど二位たることを潔しとせず。われムートンなり」
という言葉を残し、1級昇格を目指すことになります。
醸造技術の改良など絶え間ない努力の結果、格付けから118年経った1973年についに1級に格付けされることになりました。
これは例外中の例外で、ボルドー・ワインにおいて歴史的快挙でした。
そしてムートン・ロートシルトはかつての言葉を次のように直しました。
「われ一位なり。かつて二位なりき。されどムートンは変わらず」
この言葉からは、長きに渡って続けてきた努力は、昇格を果たしてからも決して途切れさせることはないというムートン・ロートシルトの今後のワイン造りに向けた強い意志を感じます。
改革
五大シャトーの中で唯一昇格を果たしたムートン・ロートシルトは様々な改革を行った印象があるシャトーです。
格上げされた当時の所有者であったバロン・フィリップが行った改革をご紹介します。
1つめは「シャトー元詰め」です。
従来はワインの樽を一旦ボルドー市内に送って、中間業者に瓶詰をしてもらうのが一般的でした。
しかしシャトー元詰めを始め、他のシャトーにも呼びかけました。
オー・ブリオンを皮切りにシャトー元詰めが広まり、ワインの品質向上にも繋がりました。
2つめにシャトー・ムートン・ロートシルトで忘れてはいけないのが、画家が描くモダンなデザインのラベルです。
1924年からバロン・フィリップは画家にラベルのデザインを頼むようになりました。
1936年に中止されましたが、第二次大戦後再び復活しました。
その後は現在と同じ上部に画家がデザインした絵を入れ、下部にシャトー名やヴィンテージなどを印刷したデザインになりました。
3つめは廉価版のワインの発売です。
「ムートン・カデ」というワインで、もともとはムートン・ロートシルトの名をつけられないような不作年のワインにこの名前を使いました。
現在はバロンフィリップ・ド・ロートシルト醸造会社が造っています。
シャトー・ムートン・ロートシルトと異なりACボルドーのワインですが、品質は良く、手軽にムートンの雰囲気を楽しめるワインとして人気があります。
さらにはカリフォルニアやチリで他のワイナリーと協力してワインをプロデュースするなど、シャトー・ムートン・ロートシルトの改革は現在でも受け継がれています。
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