【最終更新日】2023年8月9日
こんにちは。WBSの前場です。
ユーチューブチャンネル”ワインブックス”で東京都台東区にありますアーバンワイナリーを取材しました。
ブックロードという名前の小さなワイナリーですが、大変に積極的に活動されていまして、ワイン業界の一つのロールモデルになりますので是非ご覧になってみてください。
また、動画では表現しづらかった踏み込んだ分析について、ここでまとめていますので、ご興味がある方は最後までご覧くださいますようお願いします。
ブックロードさんは東京都台東区にあって都心の中心部にあるため、郊外のワイナリーほどの広大な設備は設けることはできません。
もちろん近くにブドウ畑もないため、従来型のワイナリーのように近くのブドウ畑で収穫されたブドウをそのまま醸造所に持ちこみ、ワインにするというスタイルも持ちづらいです。
また、ブドウの収穫期は夏から秋に集中しているため、それ以外の季節になると醸造設備が稼働しないため効率が悪くなります。
これを解消するためにブドウの保管など、様々な工夫をされているのです。
なお、動画内でもご活躍されている通り、WBSで学習をされて見事にワインエキスパート試験に一発合格をされた鎌倉マイコさんが勤務をされていらっしゃいます。
アーバンワイナリーでの勤務をお考えの方にもお役に立てる内容になっているはずですので、今一度動画をご参考ください。
目次
都市型ワイナリー ブックロードさん
なぜ都市にあえてワイナリーを設置するのか?
おそらくWBSで学習をされている方ですと、「なぜわざわざ都市のど真ん中でワイナリーをやるのか」気になる人も多いはずです。
都市でワイナリーを作れば当然近くに畑を併設することは難しいですし、そんなことをしたらお金がいくらあっても足りませんし。
そもそも土地は私物でありますが公共性もあって、そのため都市計画法で用途が制限されていますし、農地法で農地は保護されているため簡単な問題ではないのです。
これは日本ワイナリー全般に言えることですが、農地獲得や酒造・酒販の免許取得の敷居の高い日本では、いきなりドメーヌ型でワイナリーを始めるのはハードルが高いです。
日本でワイナリーを始めたいと願う方で、いきなりドメーヌ型を目指すこともあると思います。
しかしこれはブルゴーニュの歴史などと比較をすると現代の日本社会で実現するのはかなり無茶な話なのです。
(ブルゴーニュは1800年後半から1900年初頭までにブドウ畑に病害やフィロキセラで畑が荒廃し、二度の世界大戦でワインが売れず、ブドウ畑は二束三文になり、これを生産者が買い受けた経緯がありますが、現代日本社会ではこのようなことがおこることは考えづらいです)
そのためほとんどの日本ワイナリーでは自社畑とともに買いブドウを用いて運営しているので、「それであればワイナリーがどこにあっても買いブドウで運営できるのではないか」という考え方も成立します。
ブドウ畑の近隣にあるワイナリーと都心にあるワイナリーとでは、流通が発達した現在では収穫したブドウの運送にかかる時間は誤差の範囲です。
それであれば都心にワイナリーがあっても何の不思議もないし、ワイナリー側としては単純に立地の違い以外に大きな差は見いだせないでしょう。
メリットとデメリット
では、比較対象として従来型ワイナリーとアーバンワイナリーのメリットとデメリットを検討してみましょう。
まず、従来の郊外型のワイナリーでは以下の様なメリットが考えられます。
・地価が安く、ランニングコストを低く抑えられる
・ブドウ畑と物理的な距離が近く、輸送時間と輸送コストを削減することができる。
・消費者のイメージにちかいワイナリー運営
これらは都市型に比べた場合の郊外型ワイナリーのメリットですが、当然これがこのまま都市型ワイナリーのデメリットにつながります。
アーバンワイナリーのデメリットとしては
・地価が高くランニングコストが高い
・ブドウ畑との物理的な距離が遠く、輸送時間と輸送コストがかかってしまう
・消費者のイメージと乖離したワイナリー形態
などがあげられるでしょう。
ということは、これらを検討してなお上回るメリットがない限り、アーバンワイナリー出店の合理的な理由は見出しにくくなります。
アーバンワイナリー出店の理由
では、これらを上回る出店理由とは何でしょうか?
・親しみやすさ、ファン獲得の容易さ
・近くに醸造所があるという安心感
・ワイナリー運営というイメージの高い事業運営
SNS時代においてビジネスの最も重要な要因はファン獲得の手法ですが、実際に都市にあることでファン獲得をしやすくなるのは当然でしょう。
圧倒的にワイナリーに訪れるハードルが下がりますので、顧客がその場でSNSにアップすることで認知が広まりやすくなりますし、これに伴ってファン獲得も容易になるはずです。
また、実際に近所にワイナリーがある視認性も重要です。
オープンキッチンのように目の前に醸造設備があることで消費者に安心感を与え、購買意欲やファン心理の醸成を促すことができます。
さらに最も重要なポイントが ”ワイナリー運営はイメージが良い” ということでしょう。
ワインは歴史に支えられた品質の価値があり、ヨーロッパにおいては19世紀の後半にはその理想美が完成されたとされています。
これを引き継ぐ形で銘醸地のワイナリーは社会的な意義もイメージも高く、企業による買収が続いています。
良いイメージの業務をしたい、取り入れたい、という企業にしてみればその価値は最大化をされるのがワイナリー運営でしょう。
技術的なデメリット
では、アーバンワイナリーの技術的なデメリットに着目をしてみましょう。
一つ目は地価が郊外に比べて圧倒的に高く、それらがそのままコストに反映されてしまうことでしょう。
例えばわかりやすくボルドーやブルゴーニュの赤ワインの様なワインをアーバンワイナリーで実現するとしましょう。
この場合に発酵を終えてワインになっても、そのあとに木樽での熟成が必要になるため、最低でも数か月は木樽に詰めて熟成をさせなければなりません。
熟成に伴う場所の問題と、その間に温度を管理するエアコンの費用も馬鹿にはなりません。
もちろんこれらの費用は最終的には消費者が吸収をすることになるのでワインの価格に反映させることになります。
また、維持に高いコストがかかるため、醸造設備は常に稼働しておきたいという企業心理も働きます。
既存の郊外型ワイナリーでは、ブドウの収穫は年に一度の為、収穫期以外の季節は基本的に醸造設備は稼働をしません。
ただしそれでは都市型ワイナリーでは採算が取れないため、できる限り醸造設備を稼働させるために冷凍ブドウを使用するなどの工夫が必要になるわけです。
新しいワイナリーの形
ここまででアーバンワイナリーのデメリットや問題点を検討してきましたが、ただしこれらは既存の郊外型ワイナリーと比較をした場合のデメリットであり、必ずしもこれらがすべてアーバンワイナリーに該当するとは限りません。
というのも最初から郊外型ワイナリーは比較対象ではなく、全く別の業態であると見た場合にはこれらはデメリットでも何でもないからです。
今回ブックロードさんを取材させていただき、僕はこれまでアーバンワイナリーに大変に大きな誤解をしていたと痛感したとともに、自分を恥じたことがありました。
それは比較対象を既存の郊外型ワイナリーにしてしまい、比較した場合のデメリットばかりに目が行ってしまい、バイアスがかかった状態で認識をしていたということです。
ブックロードさんはもともとのワインファンを吸収する形(横取り)でファン拡大をしているのではなく、完全に新しいファン層を形成する形でビジネスが成立しています。
新しいファン層だからもちろんこれまでの既存のワインと比較をすることはないし、それらのファン層にすれば比較対象は都心にあるほかのアーバンワイナリーであって、決して従来型の郊外ワイナリーではないなのです。
だから”都市型ワイナリーの味”を追求することで独自性は形成をされていくだろうし、これこそが都市型ワイナリーのテロワールなのです。
(テロワールというとどうしても畑の環境ばかりに目が行きがちですが、ワインの品質に影響するのはもちろん畑の環境だけではありません。当然そこの人たちの考え方や立地、経済的事情なども勘案するべきで、これを広義の意味でテロワールとした場合の表現になります)
まとめ アーバンワイナリーのテロワール
僕はこれまで様々な取材を通して多くのワイン生産者と対談を重ねてきました。
多くの生産者はみな優秀で、かつ、自身のワインに誇りを持っています。
彼女ら彼らに共通すること、それが「ここで表現できることに全力を注ぐ」ということです。
消費者は勝手だから、「ブルゴーニュワインと比べてこうだ」とか「ボルドーワインと比べるとこうだ」と言いがちですが、生産者にすればどうでもいい問題です。
生産者は目の前のやるべきことに必死で、それらを一意見として参考にすることはあっても流されることはありません。
アーバンワイナリーはまだ歴史が浅く、そのため評価も定まっていないのが現状です。
ワインブックスはこれからも粘り強く取材を続け、アーバンワイナリーの魅力とテロワールを探り続けます。非常に面白い研究対象だと感じました。
今後とも応援をよろしくお願いいたします。
ワインブックス 前場亮
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